高学歴の社会的背景

 大衆教育の普及は、近代社会の特徴である。日本の近代学校教育制度は、明治以降急速に整備されてきた。義務教育の普及に大きな影響を与えたのは、明治33年の改正小学校令である。これによって、義務教育就学規定が明確になった。初等教育が義務教育としてゆきわたった明治30年代末から、中等教育人口も本格的な拡大の段階に移行した。義務教育年限の延長や単線型学校教育制度の導入によって、中等教育への就学率は急激に増大した。前期中等教育(中学校)の就学率は、ほぼ100%となった。後期中等教育(高等学校)への進学率は、昭和25年(1950)42、5%にすぎなかたものが、昭和55年(1980)には94%を越えた。いまや高校教育は準義務化の様相を帯びている。
 戦前における高等学校への進学率はごくわずかであった。戦後になって高等教育人口は爆発的に増大した。それは、新制度のもとで新制大学・短期大学が相次いで設置されたこと。また、高度経済成長と産業構造の変化に伴い高度な知識の人材需要が高まったためである。さらに、生活水準や経済水準の高まりに応じて教育要求が増大したことなどが考えられる。これまで長い間、教育は無条件に価値あるものとみなされてきた。教育はすればするほどよい。それがすべての子ども達に、出来る限り長期間の教育を保証するための努力を正当化する根拠とされてきた。その結果、現代ではほぼすべての子どもたちが18歳まで学校教育をうけるようになり、さらに大学や短大、専門学校に進学する者も同年齢層の半数を越えている。大学・短期大学への進学率は、昭和31年(1956)9、8%にすぎなかった。しかし、20年後の昭和51年(1976)には、38、6%まで達した。しかし、七十年代から80年代にかけて、学力の低下と自殺の低年齢化、非行の増加、校内暴力と中等教育を中心に問題が蓄積された。学校の在り方を変える必要がでてきた。 前産業社会では、子どもにとっては家庭や地域社会が教育を受ける場所であった。しかし産業化と都市化は、もはや新しい職業に必要とされる知識や技術を教えることはできなくなってしまった。産業社会では技術的変化が職業に必要な訓練を求め、教育の水準を高めるようになる。その結果、就職時に求められる学歴水準が高まる。よって多くの人々が今まで以上に長い期間学校教育を受けることにつながっていく。教育の拡大は、社会の産業化のプロセスと密接に関連していると、とらえられる。1991年に生まれた子どもの数は、120万人強であり、いまの18歳人口210万人弱の、およそ半分でしかない。より高い生活水準を求めて進んできた出生率の低下が、子どもの数の減少をもたらし、その少ない子どもの教育に集中的に金がつぎこまれる。どのような学校に行っているのか、学校外でどのような教育をうけているのか、ということが生活水準の高さをあらわす指標とみなされる風潮になった。現代社会は分業化した社会であり、そのなかでいずれかの職業に就くことが期待される。そして能力の指標は、一般には学業成績で示される。親が経済的に豊かで、子どもに十分な学習環境を与えられる状況になった。社会的階層が学業成績を規定し、それが学歴達成に影響を与える。勉強競争が経済的損得と結び付くことになる。             戦前の学校体系は女子に門戸を開いていた大学は、少なかった。戦後、教育制度が単線化され、男女平等教育が提供された。近年の進学率の上昇は、女子の進学率の急上昇を中心に進んでいるところに重要な特徴がある。女子の進学率の上昇によって、いま日本の高等教育と学歴の世界に、大きな構造変化が起ころうとしている。これまで男子が独占してきた範囲に、新しい強力な競争者が出現してきたことを意味する。男女の教育機会の平等化のうごきは、21世紀に向けて今後もつづき、高等教育の構造変化を推し進めて行くことが予想される。日本の社会では、大学入試が将来の経歴を左右する選抜機構となっている。高等教育卒業の肩書がないと、専門的・技術的職業、管理的職業などの職業的地位を獲得するのが困難になる。その一つが学閥の存在であろう。現代の若者が学歴を求めるのは、単に立身出世のためだけではなくなっている。自己のステイタスシンボルとして学歴を捕らえる観点が強くなっている。学歴主義について重要なのは、就職や昇進よりも、世間の人が通っている学校で人を判断するということである。それがなければ、受験競争がもたらす心理的な圧迫感は小さなものになるであろう。
日本を変える教育
2008年5月14日の最新情報

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